月夜見の女王と白銀の騎士
「無事です」とメアリが苦笑して答えると、イアンは「それは重畳」と返した。

「ライル王子は明日に備えてお休みになられるとのことで、今しがた部屋に戻られました。陛下もそろそろ戻られますか?」

「はい、そうします」

「わかりました。私はまだここに残らねばならないので、誰かに送らせましょう」

 イアンの視線がサロン内を見渡す。

 同じようにメアリも見ると、ヴェロニカがまたユリウスに話しかけているのを見つけた。

 紳士な振る舞いでどこかへと案内するユリウスに、頬を緩めるヴェロニカ。

(もし、私が王女の道を選ばなかったら、ヴェロニカ様が女王になっていた?)

 選ばれなかったもうひとつの未来。

 そこでは、ユリウスはヴェロニカの騎士となった可能性もあるだろう。

 メアリの想像の中で玉座に座るヴェロニカは、自分よりずっと女王らしく見える。

(比べるなんてよくない。前向きに考えるように切り替えなくちゃ)

 息を吐き出しチリリと痛む胸を押さえると、背筋を伸ばし、イアンが呼んだ騎士と共に女王の塔にある自室へと戻った。

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