月夜見の女王と白銀の騎士
 いくら前向きでいようと顔を上げても、嫉妬から生まれる不安が再び俯かせてしまう。

 弱く、狭量な自分に嫌気が差し、唇を噛んだ直後、背後から気遣うようにユリウスの腕が回された。

「何かあった?」

 清楚な白いネグリジェを纏うメアリの背中越しに感じるユリウスの体温は心地よく、しかし、不安により曇った心が晴れることはなかった。

(これは、私の心の弱さの問題)

 ユリウスに気を遣わせたり困らせてはいけないと、メアリは笑みを浮かべる。

「大丈夫。少し疲れてるだけだから」

 変に気にしてしまうのは疲労も原因だろう。

 ヴラフォスから帰国してすぐ、戴冠式の準備が始まり落ち着く時間もあまりないままに今日に至っている。

 どうやらユリウスも同じように考えたらしく、「休みも取れていないしな」と労わるようにメアリを抱き締める腕に力をこめた。

「それなら、今夜はこのまま休む方がいいな。疲れている君に無理はさせたくないし」

 君を味わうのは回復してからにするよと耳元で囁いて、メアリが用意したレモン水を手に持った。

 大胆で思わせぶりな言葉に、甘い夜を想像してしまったメアリの頬がほんのりと熱を持つ。
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