月夜見の女王と白銀の騎士
 アクアルーナの誉れ高き近衛騎士団の第三部隊長であるユリウス・フレーヴ。

 現在、メアリと恋仲である彼の正体は、グラリア大陸の北部及び西部の領土を所有するヴラフォス帝国の第二皇子、ユリウス・イルハザードだ。

 父メイナードを罠にはめ、命を奪った敵国の皇子だと知った時、メアリの心は当然の如く痛み、戸惑った。

 しかし、時折見え隠れするユリウスの苦悩に気付き、向けられていた優しさを信じ続けたメアリは、いつしかユリウスを恋い慕うようになった。

 ユリウスもまた、メアリの真っ直ぐな心根に惹かれ、敵国にあってもめげずに浮かべる笑みに魅せられ、深い愛情を抱くようになったのだ。

 ヴラフォス帝国の皇子という立場にありながら、メアリを守るべく近衛騎士としてアクアルーナで生きることを望むほどに。


 メアリの柔らかな唇を堪能するユリウスは、零れる甘い吐息まで食べつくそうと口づけを徐々に深いものへと変えていく。

 冷えた頬は温められ、いっそこのままユリウスに身を委ねたくなるが、メアリはそっとユリウスの胸を押して制した。

「ユリウス、時間が」

 頬をほんのりと赤く染めて戴冠式の時間が迫りつつあることを告げると、ユリウスの目が甘ったるく細められた。

「わかってるよ。本当は、このままもう暫く俺だけの君でいてほしいけれど、仕方ないか」

 ユリウスが堪えて、メアリの額へと口づけをひとつ落とした。
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