月夜見の女王と白銀の騎士
「昨夜、ヴェロニカ様が騎士宿舎を訪ねてきた」

「ヴェロニカ様が?」

「ユリウス隊長に会いに来たらしい。隊長はあえて会わずにセオに断わらせて帰してたが、ヴェロニカ様は執着するという噂がある。悪い癖を発揮しているだけならまだいいが、ランベルト大侯爵が釈放されたこともあって、罠じゃないかと警戒してる騎士もいる。一応メアリの方でも注意して行動してくれ」

「わ、わかった……。教えてくれてありがとう」

 ただの手癖の悪さが出たのか、父親の策略か。

 どちらにせよ、警戒しておくに越したことはないとウィルの忠告にメアリが頷くと、ちょうどジョシュアが戻って来る。

「ウィル、これで全部だよ」

「ありがとうございます」

 ウィルに箱を渡したジョシュアは、ふと、メアリの表情が曇っていることに気付いた。

「メアリ? 何だか元気がなくなったような……」

 そこまで口にしたジョシュアがハッとして睨んだ相手はウィルだ。

「まさか、お前かウィル」

 あながち間違ってはいないのでウィルは否定しなかったのだが、メアリが慌てて「違うの」とフォローに入った。

「ほら、そろそろ戻らないといけないなと思って」

「ああ、そうか。メアリは僕と離れるのが寂しいと思って……くぅっ……僕もだよ。本当ならずっとそばで見守っていたいけれど、仕事が僕とメアリを引き裂きやがるんだ。クソが! だからウィル、お前に超重要任務を授ける。僕の愛する可愛いメアリを執務室まで送ってやってくれ」

 ジョシュアにがしりと肩を掴まれたウィルは、若干引きつつも「わかりました」と頷いた。
そうして、メアリはウィルと共に医務室を出る。
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