月夜見の女王と白銀の騎士
「ごめんね、仕事中なのに」

「俺は女王を守る近衛騎士だ。これも仕事のうちだろう。というか、むしろ侍女の姿がない時点で送っていくつもりでいた」

 荷物を手にするウィルと廊下を並んで歩きながら、メアリはまた「ごめん」と苦笑した。

 自分の方向音痴が原因で、ウィルの手を煩わせてしまっていると自覚したからだ。

「それより、こっちこそ悪い」

「なにが?」

「元気がなくなったの、俺の忠告のせいだろ」

 ウィルはばつが悪そうに横目でメアリを見ると、小さな声で「怖がらせたか?」と訊ねた。

「そうじゃなくて、ちょっと反省してたの」

「反省?」

「ランベルト様が絡んでるかもしれないって考えに及ばなかったことを」

 こちらが信じなければ、信じてもらえない。

 その考えは変わらないが、メアリもまったく警戒をしていないわけではなかった。

 釈放されたランベルトが、何か仕掛けてくる可能性はゼロではない。

 だが、ユリウスに声をかけるヴェロニカが、ランベルトの指示で動いている可能性があるなど、露程もその考えに至らなかったのだ。

(なんて情けないの)

 比較して落ち込み、嫉妬心に目を曇らせている場合ではない。

 アクアルーナの女王として、もっとしっかりしなければと気を締め直すと、背後から「あら、女王陛下」と艶やかな声がかかった。

 噂をすればなんとやら。

 ふたりが同時に振り返った先に立っているのは、レースの扇子で口元を隠し、バラ色のドレスに身を包んだヴェロニカだ。
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