月夜見の女王と白銀の騎士
 力が及ばないことは、自分がよくわかっているのだ。

 だからこそ、休日返上で、できることをこつこつと積み重ねている。

 明日の自分が、今日より僅かでも成長していることを信じて。

「そうですね、とても重いです。けれど、父様から託された責務から目を背けるつもりはありません。王女の道を選ぶ時、私は決めました。父様の守って来たものを守り通すと。そのための努力は惜しみません。けれど、私ひとりの力ではできることは限られている。だから私は、アクアルーナの未来を真剣に思う皆さんの力を借りたい。ヴェロニカ様、あなたのお力も、あなたのお父上のお力も」

 廊下に、凛として淀みのない想いを乗せたメアリの声が響く。

「まるで幼子の理想論ね。仲良く手を取り合い、国を守り存続させていく。けれど、現実はおとぎ話ではない。そんなに甘くうまくいくような世の中であれば、私は……」

 ヴェロニカの声が、思考の迷宮に囚われるように尻すぼんでいく。

「ヴェロニカ様?」

 瞳に陰りが見え、心配したメアリが首を傾げると、ヴェロニカはわざとらしく微笑んだ。

「お忙しい中呼び止めて申し訳ありませんでした。ユリウス様に、ヴェロニカが礼をしたがっていたとお伝えください」

「わかりました」

「あと、そちらの番犬さん、牙をむき出し過ぎですわ。ユリウス様を見習いなさいな」

 では、失礼しますと扇子をたたみ、ヴェロニカはドレスの裾を翻し去っていた。
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