月夜見の女王と白銀の騎士
「実は、イアン侯爵殿から君を探すように仰せつかったんだ」

 見つけられてよかったと微笑むユリウスの顔は美しいが、脳裏に厳しい表情を浮かべたアクアルーナの宰相、イアン・ロッド侯爵の姿が浮かんでメアリは頬をひきつらせてしまう。

「お、怒ってました?」

「というより、焦っていたかな。戴冠式が始まる前に戻ってこなかったらと心配しているのだろう」

「そうですよね! 急いで戻らないと」

「あ、これもイアン侯爵殿からの伝言。君を見つけたら、部屋へ戻らず、そのまま控えの間へ来るようにと。そこで支度できるよう手配したようだよ」

 イアンはメアリが迷子になることを予測していたようだ。

 何事も先回りをする優秀な宰相を尊敬しつつも、申し訳なさで肩を小さくしたメアリに、ユリウスは優雅に手を差し伸べた。

「僭越ながら、控えの間まで俺がエスコートを」

 謙遜した物言いだが、本来、ユリウスは一国の皇子という立場だ。

 加えて、白銀の騎士と名高いアクアルーナの近衛騎士。

 今、このアクアルーナにおいて、彼以上のエスコート役はいないと言っても過言ではない。

「とても光栄です」

 メアリは微笑んでユリウスの大きな手に自らの手を重ねる。

 歩み出したメアリの顔つきはすっかり王女のもの。

 ユリウスもまた、近衛騎士として精悍な佇まいで王女を導く。

 控えの間へ道すがら、ふたりとすれ違う者たちは、まるでおとぎ話のワンシーンを見ているようだと溜め息を漏らしたのだった。


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