月夜見の女王と白銀の騎士
 見送るウィルのこめかみに青筋が立つ。

「俺は誰彼構わず噛みつこうとしているわけじゃない」

 わかるよなと言わんばかりに幼馴染であるメアリを見るウィル。

 ヴェロニカの嫌味から守ってくれたのをメアリはもちろん理解しており、「わかってる」とコクコクと頷いた。

「ウィルがいてくれ助かった。フォローありがとう」

 苛つく幼馴染に礼を述べると、メアリは短く息を零す。

(ヴェロニカ様は、私を良く思ってないのね)

 ユリウスを見習えと話題に出すくらいだ。

 女王として不甲斐なく思っているという理由だけではないのだろう。

 初めて挨拶した折に、メアリを支えるべく己が責務を果たしていく所存だと話したのは恐らく建前。

 だが、ヴェロニカも言っていた通り、現実はおとぎ話ではないことをメアリは知っている。

 ましてヴェロニカはランベルトの計略により女王になるべく嫁がされることを許されなかった身。

 メアリに対して思うところがあるのは当然と言える。

(本当に、現実がおとぎ話の結末のように、優しかったらよかったのに)

 会いたいと焦がれた父が王だと知ってすぐに死に別れ、王女となり、敵国の奇襲部隊と激突。

 憧れの騎士の裏切りにより敵国に囚われ剣を受け、今も残る傷を腕に負った。

 不安と恐怖と痛みはいつだって側にあり、加えて祖母の予言にある危機が払拭されたのかも不明。

 女王として生きる限り、めでたしめでたしで終わることはないのかもしれないとさえメアリは思っている。

 けれど、決して不幸だとは思っていない。

 支えてくれる者たちがいて、愛するユリウスが共にいてくれる。

(だから私は立っていられる)

 悲しみに暮れてばかりでは前に進めない。

 めげずに頑張ろうと顔をあげ、メアリはウィルと共に執務室へと向かった。


< 50 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop