月夜見の女王と白銀の騎士
 お忍びでの視察ではあったものの、ジョシュアの手伝いで看護をしていたメアリの顔を知る者は多く、道を歩くと方々から声がかかった。

 その声のほとんどは即位を祝うもの、ヴラフォスとの同盟を喜ぶ声だったが、中にはランベルトの釈放について不安を零す者もいた。

 メアリは、そのひとつひとつを丁寧に受け取り、ランベルトについては今後、政治に深く関わらないことを説明した。

 皆が憂う結果にはならぬよう、努力をすることも。

 木々を打つ雨が跳ねて踊る。

「……手を、取り合うことはできないのかな」

 ぽつりと零したそれは、胸中で呟くつもりのものでメアリはハッとした。

「大侯爵のこと?」

「ご、ごめんなさい、弱音みたいに」

 見抜かれて、ばつが悪そうに眉を下げたメアリに、ユリウスは優しい笑みを浮かべる。

「いいよ。俺には何でも話して。君の全てを受け止めるから。あ、別れ話以外は」

 最後に茶化したユリウスだが、気遣い、和ませてくれたとすぐにわかり、メアリは「そんな話は絶対にしないわ」と微笑んだ。

 ユリウスはそれを嬉しく思いながらも、唇を動かす。
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