月夜見の女王と白銀の騎士
「俺が近衛騎士となってから見てきたランベルト大侯爵は、常に利己主義で誰の意見も聞かず、場を引っ掻き回すのが得意な方だ。イアン殿から聞いた話だと、聖王と謳われたバリスタン王の宰相『ルース侯爵』の暗殺は、ランベルト大侯爵が命じたものだと囁かれていたらしい」

 バリスタン王とは、メアリの祖父だ。

 毎年増えていく王国史に、ルース宰相の名があったことをメアリは思い出す。

 確か、ヴラフォス帝国との戦にて殉職したと記されていたが、暗殺されていたことにメアリは驚いた。

「なぜ、宰相を狙ったのかしら」

「狙ったのか、もしくは王が狙われ宰相がその身を挺してお守りした……ということかもしれない」

「まさか。だって王はランベルト様の兄上でしょう?」

「仲のいい兄弟ばかりではないからね。特に、王位が絡むとこじれやすくなる。よくある話だ」

 ユリウスと同じ言葉を、以前イアンも語っていた。

 王族にとって、親族の存在は危険を孕むことが多いと。

(──まるで、恋を知り嫉妬に狂った者のよう)

 考えた刹那、ヴェロニカの言葉を思い出した。

「そういえば、ヴェロニカ様からユリウスに伝言が」

「ヴェロニカ様から?」

「お礼をしたいって」

「……必要ないと断ったはずだけどな」

 溜め息交じりに零したユリウスは、失敗だったなと続けて苦笑する。

「失敗?」

「君が目指す未来には、親族との関係を良くしたいという願いもあるだろう? だから、丁重に接していたんだけど……」

 そこまで話して肩をすくめたユリウスに、メアリは胸中で自分を責めた。

(私、自分のことばかりでダメダメだし、本当に恥ずかしすぎる!)

 ユリウスはメアリのためにと動いてくれてたのに、自分ときたら比べて嫉妬していたなんて。
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