月夜見の女王と白銀の騎士
 背筋を伸ばして立つ衛兵が豪華な装飾の扉を開くと、謁見の間の空気が柔らかく震えた。

 アクアルーナの紋章を背にした玉座へと真っ直ぐに伸びる濃紺の絨毯。

 メアリが目指す玉座の左にはイアン、右には王立騎士団と近衛騎士団を総括する騎士団長オースティンが控えている。

 ジョシュアと同じく、父メイナードの親友であるふたりと視線を交わしたメアリは、密かに深呼吸をした。

(大丈夫。リハーサル通りにやればいいだけよ)

 皆の視線が集まる中、一歩、絨毯を踏みしめると母親譲りの艶やかなグレートーンのブロンドヘアが揺れる。

 玉座を見据えるダークブラウンの瞳は、父の優しき双眸と同じ色だ。

 絨毯の外側を沿うように整列する近衛騎士の中にユリウスの姿を見つけ、メアリの緊張が僅かに和らぐ。

 彼の隣には、幼馴染のウィルや第二部隊長のルーカスも立っており、後方の貴族に混じるジョシュアを認めると、さらにメアリの体から余計な力が抜けていった。

 しっかりとした足取りで進むメアリを目で追いながら、ルーカスは声を潜める。

「お前なら、婚約者のユリウス皇子としてメアリ王女……いや、女王陛下の横に立つ道もあっただろうに」

「先王を殺めた国との婚姻は、メアリの評価を落としかねない。ならば、今は騎士として彼女の側にいようと、そう思ったんです」

 答えたユリウスに、ルーカスが「なるほどなぁ」と納得する横で、第二部隊所属のウィルが溜め息を吐いた。

「……先輩方、静かにしてください。あと俺を挟んで会話すんのやめてください」

 淡々と諫めるウィルに肩をすくめるルーカス。

「悪い悪い。でも、そうだな。ヴラフォスの皇帝がお前の兄上へと代替わりしたとはいえ、帝国のイメージはまだいいものとは言えないしな」

 正直に告げられ、ユリウスは前月に行われたヴラフォス帝国での戴冠式の様子を思い出した。

< 6 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop