月夜見の女王と白銀の騎士
 イアンとオースティン。
 ふたりが揃ってメアリの執務室にやってきたのは、夕食を終えてから半刻後のことだ。

 オースティンの報告によれば、王都内で誘拐事件は発生しておらず、ここ数日のうちでいえば、捜索の依頼はあってもどれも特別な事件性はなさそうとのこと。
 また、イアンからは、ランベルトが屋敷から出た気配はなく、時折、例の神官が訪ねてくるとの話を聞いた。

 椅子に腰かけ報告を受けたメアリは、ふたりを見上げる。

「私を襲うように指示した男性が、その神官という可能性はありますか?」

 イアンがひとつ頷く。

「その線ですでに動いていますが、まだ有力な証拠となるものは掴めていない状況です」

 神官の動きも特に怪しいものはなく、警備する騎士が素性を尋ねたところ、元はディザルト公国で活動をしていた宗教団体で、布教活動に精を出しているのだと語ったそうだ。
 調査にはオースティンも協力しており、王立騎士団の諜報部隊が神官を追跡したが怪しいところはなかったという。

 オースティンはイアンに続けて話す。

「ライル王子殿下が追っているという誘拐事件、単独犯ではなく組織であるのは間違いないでしょう。どれほどの規模かはわかりませんが、こちらもすぐ諜報部隊に捜索を依頼します」

「はい。よろしくお願いします」

 何を目的とした誘拐であるかは不明であるが、各国境の警備も強化することが合わせて決まると、ふたりはメアリに一礼し下がった。

 執務室に残されたメアリは、背後の窓から星空を見上げる。

(月夜見の巫女……か)

 メアリをそう呼んだ青年は、ランベルトに雇われた者なのだろうか。
 机の前でいくら考えても謎は解き明かされないまま、夜はいつも通りに更けていった。

< 72 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop