月夜見の女王と白銀の騎士
***
──ギリ、とヴェロニカは手にした扇子を力一杯握る。
毎年恒例となっている近衛騎士入団試験の御全試合。
ユリウスもいるだろうと張り切ってめかし込み出席したのだが、挨拶もできぬままであり、せめて少しだけでも話をとユリウスを探し歩いていた。
きっとメアリと共にいるだろうと予想し、女王の控室を訪ねてみれば、中から親しそうに話す声が聞こえ、扉の隙間から覗いてみればなんということか。
メアリとユリウスが仲睦まじく口づけをかわしているではないか。
さすがのヴェロニカも無粋に扉を開けることはできず、まして相手は女王陛下とありそっと離れる。
(やはり、噂は真実だったのね)
相手が女王ではいくらなんでも分が悪い。
しかし、ユリウスはヴラフォス帝国の皇子だ。
自分の虜にできたらさぞかし満たされるであろうと、諦めきれずにヴェロニカは誰もいない静かな廊下を歩く。
「女王の座だけでなくユリウスさままで手に入れて、いいご身分だわ」
吐き捨てるように独り言ちたヴェロニカの行く手に、いつからいたのか右目を眼帯で隠した青年が立っていた。
「あなたは父の客人の……」
屋敷で一度だけ見かけたことがあり、しかしなぜここにいるのかと僅かに首を捻る。
ランベルトを訪ねてきた際は、コロシアムで働いているようには見えなかった。
「覚えていただけて光栄です、レディ・ヴェロニカ」
「私になにか御用?」
「ええ。もし、貴女が彼を手に入れたいのなら、協力しましょうか?」
それは、今のヴェロニカにとって至極魅力的な言葉。
「……話を聞きましょうか」
ヴェロニカは畳んでいた扇子をバサッと広げると、優雅に仰いで不敵な笑みを隠した。
──ギリ、とヴェロニカは手にした扇子を力一杯握る。
毎年恒例となっている近衛騎士入団試験の御全試合。
ユリウスもいるだろうと張り切ってめかし込み出席したのだが、挨拶もできぬままであり、せめて少しだけでも話をとユリウスを探し歩いていた。
きっとメアリと共にいるだろうと予想し、女王の控室を訪ねてみれば、中から親しそうに話す声が聞こえ、扉の隙間から覗いてみればなんということか。
メアリとユリウスが仲睦まじく口づけをかわしているではないか。
さすがのヴェロニカも無粋に扉を開けることはできず、まして相手は女王陛下とありそっと離れる。
(やはり、噂は真実だったのね)
相手が女王ではいくらなんでも分が悪い。
しかし、ユリウスはヴラフォス帝国の皇子だ。
自分の虜にできたらさぞかし満たされるであろうと、諦めきれずにヴェロニカは誰もいない静かな廊下を歩く。
「女王の座だけでなくユリウスさままで手に入れて、いいご身分だわ」
吐き捨てるように独り言ちたヴェロニカの行く手に、いつからいたのか右目を眼帯で隠した青年が立っていた。
「あなたは父の客人の……」
屋敷で一度だけ見かけたことがあり、しかしなぜここにいるのかと僅かに首を捻る。
ランベルトを訪ねてきた際は、コロシアムで働いているようには見えなかった。
「覚えていただけて光栄です、レディ・ヴェロニカ」
「私になにか御用?」
「ええ。もし、貴女が彼を手に入れたいのなら、協力しましょうか?」
それは、今のヴェロニカにとって至極魅力的な言葉。
「……話を聞きましょうか」
ヴェロニカは畳んでいた扇子をバサッと広げると、優雅に仰いで不敵な笑みを隠した。