月夜見の女王と白銀の騎士
 自室の扉が閉まった途端、メアリは膝から崩れ落ちた。

「はぁっ……緊張した……疲れた……お腹すいた……」

 謁見の間での戴冠式は滞りなく終わった。

 だがその後、休む間もなく民衆へのお披露目パレードがあり、スピーチもこなし、夕方からはアクアルーナの重鎮や騎士たちとの晩餐会。

 一日中気を張っていたメアリは、まだ剣の稽古やダンスレッスンによる疲れの方がマシだと心中で愚痴る。

 着替えを手伝うために控えている侍女たちが苦笑するのを横目に、共にメアリの部屋に足を運んだイアンが呆れて溜め息を吐いた。

「陛下、そんなことでは困ります。明日もまだ予定が詰まっているんですよ」

「うう……頑張ります……」

 明日は昼から造船の視察、夕方からはフォレスタットの王子が即位の祝いと同盟の渉外役を兼ねてアクアルーナに来訪、数日滞在するため、またもや晩餐会が催される。

 モノクルの位置を指で直しながら、朝食後は執務室にて書類の確認をお願いしますと頼むイアンに、メアリはよろよろ立ち上がりながら「わかりました」と頷いた。

 侍女に支えられるメアリから視線を外したイアンは、窓から見える夜空を確認する。

 浮かぶのは、少しぽってりとした半月。

 満月の夜にだけ、未来を視ることのできるメアリの力は発動しない。
< 8 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop