月夜見の女王と白銀の騎士
「今宵は、よく眠れるでしょう。今日一日の疲労を癒せるかと。それと、明日の晩餐会は今日ほど人数は多くありません。フォレスタットの王子とその従者数名、政治に関わる侯爵家、伯爵家といった貴族の面々です。近衛騎士たちは陛下の警護として参加します」

 フォレスタットの王子に即位を祝われるだけでなく、同盟国の使者としてもてなし、交渉を円滑に行う為の食事会。

 メアリの脳裏にふと過るのは父メイナードの叔父にあたる大侯爵の存在だ。

 本来ならば大侯爵であるランベルトやその家族も、晩餐会に出席するものなのだが……。

「あの、ランベルト様はまだ牢に?」

 確認すると、イアンは「ええ」とだけ答える。

 ランベルトが捕らえられてからもう三カ月だ。

 未遂だったとはいえ、王女であるメアリに剣を向けた罪は重く、ランベルトの家族もまた、行動を制限されている状態だった。

 祖父母、両親、兄弟姉妹のいないメアリにとって、ランベルトとその娘たちは唯一の血縁者だ。

 彼らがアクアルーナの民から好かれていないことは、町娘であったメアリもよく知っている。

 だが、できれば味方として、共に国を支えてもらいたいという思いがあり、勇気を持ってイアンに頼む。

「釈放はできませんか?」

「理由を伺っても?」

「確かに、ランベルト様は私に剣を向けました。でも、突然私が現れて王女だと言い出したら混乱もするでしょうし……。何より、今はもうあの時とは状況も変わりました」

 時間も経ち、王女という中途半端な立場ではなく、女王となった今なら、いくら王位を狙っているランベルトでも無茶はしないだろう。

 また、ランベルトは大侯爵という地位から政治的にも強い立場にあったが、犯した罪の重さにより、今後は以前のように円卓会議に顔を出すこともなくなる。

 しかし心を入れ替えてもらえるなら、アドバイザーとして会議に招き、先々代よりアクアルーナの国政をその目で見てきたランベルトの知識を借りて強力な武器としたい。

 そう語るメアリに、イアンは思案するように瞼を閉じた。
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