月夜見の女王と白銀の騎士
 それは直感だ。
 ランベルトが口にした人物が、ヴェロニカやならず者たちに繋がるのではないかという直感。
しかし、ランベルトは答えない。
 ギリギリと歯を食いしばり、憎悪の篭った眼差しでメアリを睨み続けているだけ。

 ランベルトは帯剣してはいないが、以前は衛兵から剣を奪ってメアリを切ろうとした前科がある。
 もしまた同じ過ちを繰り返すのであれば、不敬罪により再び牢へ入れられ二度と釈放されることはないだろう。
 メアリとしては望まぬ未来。
 どうかそのようなことにはならないでほしいと祈り、もう一度尋ねようと口を引きかけたところで、優しく宥めるような声が謁見の間に響く。

「ランベルト様」と、ただ一声だけかけたのは、ずっと膝をつき頭を垂れていたランベルトの従者だ。
 その声に、ランベルトの瞳が一瞬見開かれ、小さく頷く。

「そう……そうだ。私は選ばれたのだ」

 何度も首を縦に振りながら、ぶつぶつと呟く様は異様で、その場にいる誰もが怪訝そうにランベルトを見つめた。

 従者がそっと立ち上がる。
 その刹那、メアリをちらりと見つめたその瞳は、大海原のような青と、闇夜にも似た黒色のオッドアイ。

「ランベルト様、参りましょう」

 立ち去るように促す従者は、「失礼致します」とメアリに頭を下げ、おとなしくなったランベルトを連れて謁見の間から去っていった。
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