月夜見の女王と白銀の騎士
 警戒態勢を解く騎士隊長らの中、ルーカスが小声で「いよいよ頭がおかしくなったか?」とからかうように言うと、ユリウスが「ルーカス殿」と名を呼ぶことで窘める。

 メアリの隣ではイアンが「選ばれたとは、なんの話だ」と訝しげに口にした直後、大臣らの誰かが「陛下が魔女とはなんの話だろうか」と声を潜めて話すのが聞こえた。

 ランベルトの乱入により謁見の間が俄かにざわつき始めると、イアンは大きく息を吸い、謁見の終了を言い渡す。
 今後、少しでもおかしな動きや人物に心当たりがあれば、すぐに報告するよう皆に告げ、メアリを控えの間に移動させた。
 オースティンと騎士隊長たちもその後に続く。

 扉が閉まると、メアリはイアンの腕に手を添えた。

「ヴェロニカ様に会いに行きます」

「確かめるおつもりですか」

 考えを即座に汲み取ったイアンが尋ねると、メアリは双眸に強さを宿しひとつ頷く。

「ランベルト様が言っていた〝あの者〟と、ヴェロニカ様に毒を渡した〝ある人物〟が同一人物である場合、その人が私の力について知っている可能性がありますよね」

「ええ。もしそうであれば、陛下を月夜見の巫女と呼んだ謎の青年の可能性も高くなる」

 イアンの言葉に、ユリウスは顎に手を添えた。

「ライル王子の情報にも、背格好の似た者がランベルト大侯爵殿の屋敷に入っていったとあった……」

 思い出しつつ声にしたユリウスにオースティンも続く。

「魔女というのが、陛下の持つティオ族の巫女の力を揶揄した表現なら、陛下を襲わせた男が一枚噛んでいるという線は確かにあるな」

「だが、ヴェロニカ嬢は誰からもらったか話す気がないんだろう? 意中の色男が尋問しても話さなかったのに、陛下に話すか?」

 面白半分といった顔で腕を組んだルーカスに、メアリは苦笑した。
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