月夜見の女王と白銀の騎士
「疑いをかけられたままでいるのはヴェロニカ様も本望ではないはず。それに、女同士だからこそ話せる、というのもあると思うの」

「ライバルでも?」

 先ほどからどこか居たたまれない面持ちで聞いているユリウスの肩に、わざと手を掛けるルーカス。
 第四部隊長のイザークが「おい、ルーカス、茶化すなよ」とルーカスの足を軽く蹴ると、その弟で第五部隊長のクラウスが「真面目な話の最中なのにさすが」と笑った。
 ルーカスにより僅かに緊張感が和らいだ空気に乗って、メアリは人差し指を立てる。

「ライバルだからよ。同じ人に恋をするくらいなら、実は気が合うかもしれないでしょう?」

 ルーカスはハハッと笑ってユリウスの肩を叩いた。

「いやはや、こんな素敵な女性に好かれるやつが羨ましい」

「ルーカス、その変にしてやれ」

 続きは酒の席でとオースティンが止めると、イアンは軽口にため息を吐いてからメアリを見た。

「牢へは今すぐですか?」

「はい。できるだけ早めに」

「承知しました。では、誰かに供を」

 イアンが隊長たちに視線をやると、ユリウスが「俺が行きます」と当然のように護衛を買って出る。
 しかし、ルーカスがオイオイと鼻で笑った。

「お前が陛下と一緒にヴェロニカ嬢の前に立ったら逆に話さないだろ」

「そうだ。アホか。あんた、剣の腕はいいのに女心についてはてんでダメだな」

 イザークにまで呆れた眼差しを向けられたユリウスは、まさかの攻撃にたじろぐ。

「なっ、そんなことはない、はずだ」

「いや、あんた、思いっ切り狼狽えてるじゃねぇか」

「あー、もう兄さんまで。こんな時にユリウスさんをいじめない」

 空気を呼んで兄を窘めるクラウスだが、その顔は面白がっているのを隠せていない。
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