きっとこれは眠れない恋の証明。
「わかった、通してくれ」
そう答えて程なくして、倉掛宗次郎は社長室にやってきた。
「おはようございます、黒瀬さん」
そう言って小さく頭を下げた倉掛さんは、本当に21歳なのかと疑ってしまう程儚げで透明感のある雰囲気を放っていた。
実際の年齢と本人の雰囲気があまりマッチしない所は桜と同じだ。
「おはようございます。芝波社長に渡したいもの、というのは音源の事ですか?」
「はい。急に仕事が入ったからと砂川さんに頼まれて、かわりに僕が。隼斗と予定が合わなかったので一人で来ました」
そういって一枚のCDを渡される。
「確かに受け取りました。芝波社長に渡しておきますね」
そう言ってCDを受け取ると、倉掛さんはふわっと柔らかに微笑んだ。
「ありがとうございます。あと、ユニット名も決まったんですよ」
倉掛さんが人差し指でCDを指差す。見ると、白い円盤に黒いマーカーで"unison"とあった。
unison…意味は、確か調和とか共鳴とかだったか。歌唱力も高い二人組ユニットにはぴったりな英単語だろう。
「素敵ですね。社長にもお伝えしておきます」
「ありがとうございます。…あの、ちなみに芝波社長は今日はお仕事で出られてるんですか?」
そんな質問に、一瞬どう返すべきかわからなくなった。正直に話して心配をかけるわけにもいかず体調不良だと答えると、倉掛さんは少し目を丸くして心配そうに眉を潜めた。
「そうなんですね…。お大事になさってくださいと伝えて下さい」