きっとこれは眠れない恋の証明。
(…何だったんだ、今の)
倉掛さんが社長室を出て、部屋に一人になったところで内心でそう呟く。
──どうしてこんなにずっと側にいるのに、行動しないんですか?
──大人の事情ってやつですか?
そんな質問が、今になって胸に刺さる。
俺が告白出来ないのもしないのも、それは大人の事情なんかじゃない。ただ自分が臆病なだけだ。
実際、学生時代に何度か想いが口をついて出た様な告白を何度かした事がある。だが、いつも鈍感な桜は俺の言葉を恋愛には全く結びつける事はなく、一度も桜にその意味を理解して貰った事はない。
だが、それをきちんと説明して桜にわかってもらう努力を俺はしなかった。
何も言わなければ、何も動かなければ、俺は幼なじみという立場に甘えて桜の側にずっといる事が出来る。そんな煩悩に負けた。
そして気づけばお互いに大人になり、今俺は秘書として社長である桜を支える立場にある。
もう簡単に好きだの何だの口に出来るような関係では無くなってしまった。
後悔していないと言えば嘘になる。
かといって時を戻せたとしても、俺は桜に何も言えないままなのかもしれない。
──そんな事を思う俺は、きっと欲望に忠実な子供よりもずっと子供なのだろうと無声音に苦笑した。