きっとこれは眠れない恋の証明。
『インターホンを押しても何の反応もない。最初は黒瀬さん以外の人間の訪問を警戒しているのかと思いましたが…芝波さんの携帯にも家の固定電話にも連絡がつかないんです。今も隣で秘書がずっと電話をかけてるんですが、繋がりません。』
電話越しの震えるのを押し殺したような羽水社長の声で告げられる言葉に、頭が真っ白になる。
『それで変だと思って急いで管理人に話を聞いたら、マンションを出て行く芝波さんの事を見た、と』
「な……っ」
(マンションを出た、だと!?)
受け入れ難い事実に、気づけばガンっと力強くハンドルを殴っていた。その拍子でクラクションが激しい音を鳴りたて、その音でハッと我に帰る。
そもそもこのタイミング。
ここ1ヶ月間何も動きがなかったというのに、俺が桜から離れたこの隙を狙って桜に近づいた。
そして、これは偶然かもしれないが、羽水社長がここにくる時間も知っていて、桜が一人きりになった時間を狙ったとしか思えない。
こんな完璧なタイミングが偶然な訳がない。
…でもどうして知っている。俺が桜から離れた事を。羽水社長が桜のマンションに12時に来ることを。
──いいから言う事を聞いてくれ。
でも、絶対に他の人間を部屋に入れるなよ。
そして俺は釘を刺した。
桜が俺の言いつけをそう簡単に破る訳が無い。