きっとこれは眠れない恋の証明。

そう言って倉掛君に力強く掴まれた手を振り解こうとしたが、それは出来なかった。

華奢で細い腕をした倉掛君に、こんなにも強い力があるのだとは思わなかった。そのまま部屋からズルズルと引き摺り出され、頭は真っ白になっていた。


「く、倉掛君…?」

「ただ場所を変えたいってだけだよ。そうだ、俺の家においでよ。」


(お、俺…?)

いつもと違う一人称に激しい違和感を覚えた。


それだけじゃない。声も、態度も、顔つきも、
今私の目の前にいるかれは、私の知っている倉掛君じゃない。

…絶対、何か変だ。
 


「離して…っ」


そう叫んで、私の腕を掴んでいる倉掛君の右手に思い切り歯をたてた。
倉掛君が一瞬顔を歪め、その隙に私の腕は倉掛君から解放された。



──逃げなきゃ。


倉掛君は危険だ。どうしてこんな風に様子がおかしいのかわからないけれど、とにかく彼から逃げなきゃいけない。

そう思って逃げ出そうと走り出した時だった。



私は呆気なく倉掛君に追いつかれ、
そして──首に針を打たれた。


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