きっとこれは眠れない恋の証明。






その日は、羽水社長が車で病院から自宅へと私を送ってくれた。


「…すみません、ありがとうございます」

そう力なく微笑んでお礼を言うと、羽水社長は何も言わずただ私の頭を優しく撫でた。

当たり前なのに、京のものとはまるで違うその手の感触に、心の中に風が吹いたような気持ちになった。



事情を知ったお父さんが、一ヶ月間だけ特例として芝波プロダクションの社長としての業務を請け負ってくれる事となり、私は一ヶ月間の休養を貰う事になった。


「何。一週間くらい体には何も響かないからゆっくり休んで、黒瀬君の側にいてやりなさい」


お父さんのその言葉に甘えて、私はできるだけ毎日病院に通い、京の病室を訪れ、側にいた。

京の事を信じる。

そう決めたのに、どれだけ呼びかけてもただ穏やかな顔をして眠り続けて返事を返してくれない京に、心臓が張り裂けそうな気持ちになる。


…こんな事になって初めて、京が自分の中でどれだけ大きな存在だったのかという事を激しい程に思い知った。

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