きっとこれは眠れない恋の証明。

そう言って私も芝波社長に微笑み返した。


一時期は本当に心配したけれど、とりあえずは少し安心する。


ただ、そんな芝波社長は時々、誰もが声をかけるのを躊躇うような、見ているこっちが泣きたくなるような切ない表情を見せる。


きっと黒瀬さんの事を想っているのだと分かるから、その時は芝波社長に声を掛けることはないし、そっと一人にしておくようにしている。

 
黒瀬さんの病院に一緒にお見舞いに行った時も、芝波社長は同じような顔をなさる。


でも、一度も泣かないのだ。
私が芝波社長の秘書になってから、私は一度も芝波社長の泣き顔を見ていない。


それが良いことなのか悪いことなのかは、今の私にはわからなかった。




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