きっとこれは眠れない恋の証明。
京がこんなことになる前まで、料理については食べる専門で齧ってもこなかったのだから、私が作れる料理のレパートリーは悲しい程に乏しい。
こんな事なら、あの時素直に頷いて京に料理を習っておくんだった。
そんな事を思うのはいざ自分がこういう状況におかれたからであって、たとえ当時の自分にそう忠告めいたことを言ってもきっと聞きはしないのだろう。
京が昏睡状態になってから暫くの間は食べ物の味が分からず、せっかく羽水社長や早瀬ちゃんに色々なものを食べさせて貰っても味がわからなくて、申し訳ない思いをした。
…でも、今は食べ物の味もちゃんとわかる。
最初はただ悲しい悲しいと子供のように泣きじゃくって、周りの人に支えてもらい、ようやく生きているような生活を送っていた。
でも、そんな風に周りに迷惑を掛けてばかりいていい訳がない。
月日が経って、やっとそう思えるようになった。
──いつか、京が目覚めた時。
その時、京に驚いて貰えるような。
"たくましくなったな"と褒めて貰えるような自分になろう。
仕事も料理も家事も運転も一生懸命頑張って、
京に胸を張っておかえりなさいといえるような自分になって京の事を待っていよう。
やっと今、そう思えるようになった。
そう思えるのも、京が撃たれたばかりの時、ボロボロだった私を支えてくれた羽水社長と早瀬ちゃんのおかげだ。