きっとこれは眠れない恋の証明。
でも、どこか寂しげな羽水社長の横顔は、もう面影は残っていないと思っていた幼い日の羽水社長の雰囲気と一瞬被った。
「何か今の羽水社長…翔くんに似てます」
「は?」
私の言葉に、羽水社長がポカンとして目を丸くする。
…あ、当たり前だ。私今、何て支離滅裂な事を口にしたんだろう。
翔君に似てますって、そもそも同一人物じゃないか。
「ごめんなさい、何でもないです」
「ははっ、うん。じゃあ気にしないでおく。
…よしっ、運転再開しようか」
「ええっ、もうですか!?」
思いの外はやく休憩は終わり、今度は私の苦手な駐車の練習を幾度も繰り返し見て貰った。
──そんな羽水社長のスパルタ教育の甲斐あって、二ヶ月後には"ペーパードライバー卒業"だと胸を張って言えるレベルには私の運転技術は向上していた。
そして、きっとその間羽水社長と早瀬ちゃんはきっと一度も顔を合わせていない。
お互いにいつも、まるで軽い話題の一つのように装って"そういえば"と切り出しお互いの近況を私に聞くのだ。
お互いがお互いの事を気に掛けている。
そんな二人の想いは目も当てられないくらいに明け透けなのに。
でも、二人がすれ違っている事もまた、私には手に取るようにお見通しだった。
すれ違っている二人に余計な事をして、もっと二人の仲を拗らせてしまう事になったらどうしよう。そう臆病になって足踏みをしているうちに月日は流れた。
そして、
京と過ごさない初めての秋がやってきた。