きっとこれは眠れない恋の証明。
───桜。
「………っ」
不意に、懐かしい声にそう名前を呼ばれた気がした。
そんな筈はないのに。あり得ないのに。そんな当たり前の事に気がついて、また泣きたくなる。
…何だか今日は胸がザワザワする。
一人になって、やっと強くなれたと思ったのに、京の事を思うだけで、こんなにも一瞬で弱くなってしまう自分が嫌だ。
「私…今日はもう帰るね」
そういって京から手を離し、ローテーブルに置いておいたマフラーを首に巻いた。
こうやって勝手に使っている京のマフラー。
このマフラーを使うのは今日で何回目だろう。
そんなマフラーからは、とっくに元の持ち主の匂いは消えていた。