きっとこれは眠れない恋の証明。


──京!


当時、そんな風に彼女にいつも親しそうに名前を呼ばれていた男子がいた。
隣のクラスで一度もクラスが一緒になった事はなかったけれど、学校でも目立つ存在だった彼の事は、クラスの隅で大人しくしているような俺でも知っていた。

かっこよくて背も高くて足も速くてスポーツも出来て。それでいてクールな所が良いのだと女の子にも人気があった。

そんな人がすぐ側にいるのだ。こんな俺に勝ち目なんてないと、当時の自分には諦める他に術がなかった。

極め付けは…そう。


──何だよ、桜。

そうやって彼女の名前を呼んでいるのを聞いた時。幼いながらに、激しい嫉妬というものをその時に初めて覚えたように思う。

"芝波さん。"

俺は、そう苗字にさん付けをして呼ぶ事で精一杯なのに、彼はサラリと彼女の下の名前を呼び捨てで呼んでいた。
なんでそんな小さな事が…と今になっては思うが、当時の自分にとっては、自分には決して届かない二人の関係を目の当たりにしたようで辛かったのだろう。
なんと言ってもまだ子供だった。
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