きっとこれは眠れない恋の証明。
「だって俺、小学生の時から芝波さんって呼んでたし」
「……。」
そう言われて、
そういえばそうだったと思い出す。私がどれだけ下の名前で構わないといっても、ずっと"芝波さん"と呼ばれ続けていたんだったっけ。
──何だか今はすっかり形勢逆転してしまったようだ。
「俺も呼び方変えたほうがいい?桜さん、桜ちゃん、桜」
「や、変えなくていい…っ」
なんだか私、遊ばれてる…?
少し意地悪な顔をして笑う羽水社長は、やっぱり私の事をからかっているに違いなかった。
「ごめんごめん、やっぱり無理させるのは良くないね。敬語も呼び方も、芝波さんのペースで変えてくれたらいいから」
そう言われて、私のペースでいいなら当分は敬語でいようと羽水社長の言葉に甘える事とした。
「芝波さん、散歩してたって事はここから家近い?家まで送るよ」
そう言われて、ああそういう設定だったんだっけということを思い出す。本当は散歩じゃなくて買い物しに出かけてて…しかも道に迷ってしまった上に携帯を家に置き忘れてきたという何とも情けない事情を話すかどうかを一瞬迷ったが、嘘を吐き通しても結局家までの道のりもわからないので、羽水社長に全てを素直に白状した。
「あはははっ、いや、面白すぎるよ芝波さん」
「…笑いすぎです」