きっとこれは眠れない恋の証明。

そう言って安藤さんが羽水社長の事を感心したように目を丸くして見つめる。
私は安藤さんの言動に一瞬ハラハラしてしまったが、羽水社長は戸惑う様子も無く、安藤さんに爽やかな笑顔をニコっと返していた。

「気を持たせるのは良くないわよ〜、お客さんの旦那さんは一体どっちなの?」

いきなり安藤さんの口から飛び出たそんな言葉に、思わずカァッと赤くなった。

「安藤さん誤解です!
二人とも別にそんなんじゃなくて…」

羽水社長も私なんかと変な誤解をされるなんて不快だろうと一生懸命否定する。本当にそんなんじゃないのに。

しかしからかうのをやめない安藤さんは、「ですってよ、お兄さん」なんていってその矢を羽水社長に投げた。

「そう焦らされると燃えますね」

「羽水社長…!」

てっきり爽やかに笑って流してくれると思っていた羽水社長がそう安藤さんに悪ノリするものだから収集がつかない。もうやめてくださいと赤い顔で膨れると、羽水社長に笑われながら宥めるように頭に手を乗せられた。

「ごめんごめん、からかいすぎた。他に買う物はある?」

そう尋ねられ、かごの中身を確認してから首を横に振った。

「いえ、これが最後です」

「じゃあレジ行こうか。安藤さん、じゃあまた」

そう言って羽水社長が見惚れるくらい爽やかな笑顔で安藤さんに手を振ってその場を後にし、私達はレジへ向かい会計を済ませた。



──買い物を終え、スーパーからの帰り道。



「さっきの店員さんが言ってた人って、京さん?」


さりげなく荷物を持ってくれていた羽水社長にそう尋ねられ、きっとそうですと返事をしそうになったところでハッとした。
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