きっとこれは眠れない恋の証明。
「よく一緒に買い物とか行くんだ?」
「はい…って、何で名前知って…」
安藤さんが言っていたのは京の事だ。
でもどうして羽水社長がその京の名前まで知っているのだろうかと驚いて目を丸くする。
京と羽水社長は、あの対談の時が初対面な筈──…いや、違った。
「羽水社長、京の事覚えてらしたんですか?」
信じられないといった気持ちでそう尋ねる。
だって、もう10年以上も前だ。いくら京が当時目立つタイプの男の子だったとしても、二人は友達というわけでも無かった。
「俺、記憶力は良い方なんだよね。この間の対談の時、もしかしたらそうかなって気づいて。さすがに苗字までは覚えてないんだけど」
「苗字は…黒瀬です。黒瀬京」
羽水社長が京の事を覚えていたという事実に驚きを隠せないまま、そう京の苗字を伝える。
(記憶力は良い方っていうか、それはものすごく良すぎる気が…)
「羽水社長、すごいです。だって京とは、クラスメートでもなかった筈なのに」
思わずそう心の声が漏れた。
羽水社長とは違って、確かに京は小さな時から京って感じで、あまり変化は無いけれど…。
「俺も接点のなかった昔の同級生なんて、黒瀬さん以外覚えてないよ」
そんな羽水社長の言葉に首を傾げた。京以外の事は覚えていないって一体どういう事だろう。
(京の事は特別…?)