きっとこれは眠れない恋の証明。
そう頭の中で叫びながら走り続け、走り疲れて足を止めると、そこには昼間とは姿を変えた夜の街があった。
「………。」
もうどうでもいいや。
お金さえ手に入ればそれで。
半端やけくそになっていたのだと思う。
人通りの多くない通りまでユラユラと息を切らしながら歩いて。
本当に適当だった。ただ男だという事を認識しただけで、顔も見ずに声を掛けた。
「…ご、5万で抱いて下さい」
そう言って男の袖を掴む。
──私が声をかけた相手、それが羽水社長だった。
いくらやけくそになっていたとはいえ、女として勇気を出して声をかけたのだ。
…それなのに。
「はははっ、随分可愛い娼婦に声をかけられたなぁ」
まるで相手にしていないといった様子で笑われて、ぽかんと面食らってしまった。
声をかける相手を間違えた。きっとこの男はそういう事に不自由していない人間なのだ。この人の目には、私はさぞ愚かにうつっているのだろう。そう思うと、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「すみません、何でもないです」
そう言って回れ右をし、その場から立ち去ろうとした時だった。
引き止めるように右腕を掴まれた。