きっとこれは眠れない恋の証明。

「あ、あなた一体…」

驚いて固まる私に男が振り返る。さっきは暗くて顔もまともにわからなかったが、明るい部屋の中で初めて男の顔を見た。思わず見惚れるくらいに端正な顔立ち。

それに‥‥声を聞いていただけではあまり感じなかったが、ここに一人暮らしをしているなんて信じられないくらい若い。


「次期社長って感じかな」


次期社長。そう言われて納得した。そうでもないと年齢と住まいが釣り合わない。次期社長だとしても若すぎるとは思うが。

私が声をかけた男が、ただの男ではなかったという事はわかった。でもそれなら、どうしてこの男は私を買う気になってなったのだろう。

見た目も身分も申し分ない…というかずば抜けてそれ以上。きっと女になんて困らない。


「コーヒー飲める?紅茶もあるけど」

そう尋ねられ、すこし呆気にとられながらコーヒーが好きですと答えた。男が頷き、やがて二人分のコーヒーをいれはじめる。

……この人、本当に私を一晩買う気なんてあるのだろうか。


「あの…抱かないんですか?」


私は同情されに来てるんじゃない。一緒にコーヒーを飲む為についてきたんじゃない。

そう思い堪らずに尋ねると、男はまた綺麗な笑顔を私に向けた。

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