キスの練習 -美容室-
「まずは、現状を把握するために一旦軽いチェックをしますね。椅子倒しますね〜」
『あっ、はい!』
髪の毛の現状ってことかな?ん?
シャンプーでもするのか??
困惑しながらも彼の指示に従い、
椅子に身を預けた。
ひざ掛けを掛けながら、『寒くない?』っと優しく聞いてくる彼。突然、普段の会話のトーンに戻って、ドキッとしてしまう。
「うん……大丈夫。」
『お客様、目にタオルを被せますね〜』
「はーい。」
『それでは始めますね!』
タオルが目を覆う。
あれ?水の音とかしないし……
シャンプーじゃないのかな?
「あっ、あの〜」
ちゅっ、
「えっ?!」
私の勘違いじゃなかったら、
今……キス…された?!
『お客様、どうされました?』
「えっ、いや、なに…も」
『何かあったら言ってくださいね。』
「はい…」
あれ?ふつーだ。私の勘違いだったのかな?
ちゅっ、
はっ!!やっぱり勘違いじゃない!!?
私、今やっぱりキスされたよね?!
「あっ!あの!」
『はい?どうされましたか?』
彼の声は少し笑っていた。
いや、笑いを堪えていた。
これは…確信犯だ!!
私の反応をみて絶対楽しんでいる。
嬉しいんだけど……ムカつく。
「あの、早くコース初めてもらっていいですか?」
『えっ、お客様がおまかせでっておっしゃいましたから。それにもう始まってますよ?"苦手克服コース"』
「えっ?」
『それでは続けて行きますね〜』
「いや、ちょっ!!」
ちゅ、ちゅっんっちゅ、
軽く触れていた唇をこじ開けるように舌が入ってくる。
「んん、、はっ、ん!」
彼の舌が私の舌と絡んでいく。
『ふっ、可愛い……』
「えっ?」
『お客様の苦手の原因がわかったので、その原因を解消していきますね〜、ちょっと苦しいかもしれませんが、がんばってついてきて下さいね〜。』
「えっ、はい?!」
ちゅっ、
『はい、口開けて〜』
「んっ……んは…んん」
『お客様、どうされましたか?』
「息が出来ないくて、苦し!っ!!」
ちゅっ、
『お客様、何度もお伝えしておりますが、キスをする時は鼻で息をしてください?』
「いじわるしないで…」
『って言われても、これはお客様が苦手なキスを克服するためのキスの練習てますので。』
「てか、頼んでないんですけど……」
『えっ、おまかせでって言われたのはお客様ですよ?』
「いや、それは髪の毛の話で…」
『…僕は髪の毛って言ってませんよ?』
「それは!!」
まただ、彼はたぶん今笑っている。
このタオルのせいで何も見えないけど…
タオル邪魔!!
タオルを取ろうと手を伸ばす。
『おっと!勝手に動かしちゃダメですよ?お客様。』
手を掴まれて、ズレかけたタオルは元通りに。