二度目の結婚は、溺愛から始まる
猫を脱いで、仮面を外して
秋らしいボルドーのタイトスカートに黒のニット。
足元は、お気に入りのジミーチュウ。
ショートカットの髮は前髪を上げ、アイメイクもばっちり。
アンティークの大きな姿見に映るのは、ちょっとだけ背伸びしている自分の姿。
鏡を見るのは、この三十分で三度目だ。
(この恰好で……大丈夫? おかしくない? 子どもっぽく見えない?)
今夜は、人生初のデート。
どんな服装が相応しいのかわからず、一週間も前からコーディネートに頭を悩ませていた。
パーティーで会ってから、約ひと月半。
仕事を優先するという言葉どおり、蓮はカフェに顔を出しても、わたしの誘いはことごとく撥ねつけた。
しかし、めげずに三日に一度の電話攻撃を続けた結果、今夜ディナーの約束を取り付けることに成功した。
わたしの猛攻に陥落した蓮の感想は、「うちの営業に引き抜きたい」だった。
「ねえ、どこかおかしなところない? 瑠璃」
「大丈夫、大丈夫。美脚でイチコロだって」
ルームシェアをしている友人の瑠璃は、キャンバスに向かったまま適当な感想を述べる。
キャンバスは黒。
そこにさまざまな色が飛び散り、渦を巻いていた。
わたしにはちっとも理解できないが、瑠璃が描く抽象画は高く評価されていて、国内外の画廊から作品を置きたいと声が掛かる。
「見もしないで言わないでよ」
「見なくてもわかる。酔っ払って、素っ裸で寝ている椿を何度目撃したと思ってるのよ? 飲み過ぎないよう注意しなさいね? あれを見たら百年の恋もいっぺんに冷めるわよ?」
「酔っ払ったら相手を脱がす瑠璃よりマシよっ!」
「わたしの場合は、純粋な探求心。作品づくりに生かすために、いろんな人間の身体を見たいだけ。椿の場合は、ただの公害」
「こ、公害って……」
「ねえ、椿。なんだか……いつもより胸、大きくない?」
振り返った瑠璃が首を傾げる。
「そ、そう? 気のせいじゃない?」
思わず、ギクリとして胸を押さえた。
実は、寄せて上げるブラに、パットを一つ余分に入れている。
「ほら、電話鳴ってるよ。お迎えが来たんじゃないの?」
「あっ!」
慌ててテーブルの上に置いたスマホを取り上げ、咳払いしてから応答する。
「はい、椿です」
「ぶふっ」