二度目の結婚は、溺愛から始まる
再婚は、まだしていません
「残念ながら、まだ復縁には至っていません。会長」
「どういうことだ、雪柳くん。営業を離れたせいで、相手を陥落させる腕も鈍ったのかね?」
「面目ありません」
「椿も、さっさと素直にならんか。心が決まっていながら迷うのは、慎重なのではなく臆病なだけだぞ。いつまでも、寂しい暮らしを続ける気か?」
「お祖父さまっ! わたしは、寂しくなんかないわ。あちらでも充実した生活をしていたし、これからだって……」
「では、どうして優男と三か月で別れたんだ?」
「や、優男?」
「アンドロイドだか何だか知らんが、あんなにやけた男のどこがよかったのか、さっぱり理解できん」
いったい、誰からそのことを聞いたのかと思いながら、一応訂正する。
「アンドロイドじゃなく、アレッサンドロよ……」
「どちらでも一緒だ! はるばる外国まで行っても、雪柳くん以上の男はいないとわかっただろう? 自分でも、離婚したのはまちがいだったと思っているはずだ。まちがいは、早急に正すべきだ。ちがうか?」
祖父の言葉は、全部ではないが真実を突いていた。
きっと、世界中のどこを探しても、蓮以上に好きになれるひとはいない。
でも、一方的に決めつけられたくはなかった。
いまになってみれば、離婚せずに、辛い日々を乗り越える術があったのかもしれないと思う。
けれど、それは時が経ったからそう思えるのであって、あの頃のわたしには無理だった。
どうにかして乗り越えようとあがき続けた日々は、「なかったこと」にできるほど、短いものではない。
「まちがっていたかもしれないけれど、あの時はああするしかないと思ったのよっ! 七年も前に別れておいて、簡単に元に戻るなんてできるわけが……」
つい声を荒らげそうになったところへ、蓮が割って入った。
「会長がもどかしく思われるのはごもっともですが、前回の反省も踏まえ、今回はきちんと段階を踏みたいと考えています。どうか、いましばらく見守っていただけませんか」
「ふん。営業の鬼もずいぶんヤワになったものだ」
祖父は苦々しい顔で鼻を鳴らしたが、蓮はさらりと受け流す。
「交渉では押すだけではなく、引くことも必要だと心得ているつもりです。一度、失敗している身としては、慎重にならざるを得ません。それに……会長もご存じのように、手強い相手なんです。十分な下準備をしなければ、門前払いを食らうでしょう」
「腹黒いやり方だな」
「小心者なんですよ。拒絶されたら立ち直れなくなるので、無理強いはしたくないんです」
「つまり……惚れた弱みか?」
「否定はしません」
「二度目の失敗は許さんぞ」
「心して、取り組みます」
「わしは、いい結果しか聞きたくないぞ」
「承知しています」
「さて、そろそろ行こうか。ワリカンなどと野暮なことは言わんでくれよ? 雪柳くん」
「はい。ごちそうになります」
当事者であるわたしを差し置いて、二人は勝手に納得し、話を終わらせた。