二度目の結婚は、溺愛から始まる
(お祖父さま! なんで蓮を誘うの……)
祖父に「再婚」の期待を抱かせるようなことはしたくなかったが、むきになって嫌がれば、逆に意識していると思われる。
黙って歯噛みするしかないわたしに、蓮は思わせぶりな視線を寄越した。
(もしかして、誘われることを見越して、ゆっくり過ごせばいいと言ったの……?)
会長命令とあっては、蓮も断れないし、わたしも反対できない。
蓮は、当然のことながら、笑みと共に快諾した。
「では、お言葉に甘えてお邪魔させていただきます。自分も、とっておきの一本を持参しますよ。南のものですから、飲み比べしましょう」
「おお、それは楽しみだな。酒の肴はこちらで用意しておくから、気を遣わんでくれ」
「ありがとうございます。なるべく早めに切り上げられるよう、真面目に働きます」
深々と溜息を吐きたくなったが、嬉しそうな祖父の顔に、「これも祖父孝行だから」と自分を納得させた。
ひとり暮らしの祖父にとって、自宅で誰かとゆっくり食事やお酒を楽しむ機会が、そう頻繁にあるとも思えない。しかも、ワイン派の柾とちがい、蓮は日本酒派。同じ日本酒派の祖父にとって、心ゆくまで日本酒談義ができる、うってつけの相手なのだ。
(それにしても……相変わらず、思うように事を運ぶのが上手いんだから)
昨夜だって、蓮は「キス以上のことはしない」と言いながら、キスだけでは終わらなかった。
我慢できなくなったのは、蓮ではなくわたしだったけれど、そうなるように仕向けたのは彼だ。
(蓮のキスがいけないのよ……あんなに気持ちいいなんて、犯罪だわ)
唇を引き結んで睨みつけるわたしに、蓮は片方の眉を引き上げた。
(また、子ども扱いしてるの?)
からかうような、面白がっているようなその仕草にむっとした時、視界が翳り、柔らかいものが唇にそっと押し当てられた。
(え……? いま……)
答えを求めて顔を上げるともう一度、同じものが唇に触れた。
「そんな顔をされたら、しないわけにはいかないだろ」
「…………」
そんな顔とはどんな顔だと問い返したかったが、驚きすぎて声が出なかった。
見上げた蓮は、目にしただけで蕩けてしまいそうなほど甘い笑みを浮かべている。
「椿。乗るのか乗らんのか、はっきりしなさい」
祖父の声に振り返ると、すでにエレベーターが到着していた。