二度目の結婚は、溺愛から始まる
よそゆき具合三倍増しの声に、瑠璃が盛大に噴き出す。
(瑠璃っ!)
わたしが睨みつけると、瑠璃は身体を震わせながら両手で口を塞いだ。
『こんばんは、雪柳です』
低く、耳に心地よい落ち着いた声を聞いた途端、カクンとひざが抜け、テーブルにしがみつく。
(こ、声が……反則……)
「こ、こんばんは。あの、お仕事は……大丈夫ですか?」
『あまり長居はできないけれど、夕食を取るくらいの時間は確保したよ』
(え……ディナーを食べたら、それでお別れってこと?)
がっかりしそうになったが、別れたくないと思わせればいいのだと気を取り直す。
「お忙しいのに時間を割いていただき、ありがとうございます」
『こちらこそ、慌ただしくて申し訳ない。車で来ているので、下りて来てもらえるかな?』
「はい、すぐに行きます!」
声を殺して笑っている瑠璃をにらみつけ、電話を切る。
「……瑠璃」
口を塞いでいた手を退けた瑠璃は、涙を流しながら笑い転げた。
「あー、苦しかった。久しぶりに椿の『猫』を見たけど、ほんと……詐欺ね」
「世の中のお嬢さまに対する夢を壊したくないだけよ」
「ようやく現れた王子さまに、見る目があるといいわね?」
「どういう意味?」
「さあね。ほら、さっさと行きなさいよ。あまり待たせると、お高くとまってると思われるわよ?」
「お嬢さまなんだから、それくらいでちょうどいいの! 行って来ます!」
蓮がイヤイヤながらもわたしの相手をしているのは、「お嬢さま」だからだ。
そうでなくては、いとも簡単にあしらわれるだろう。
レザークラフト作家志望の友人が作った黒い小ぶりなバッグを掴み、最後にもう一度玄関の姿見で装いを確認する。
黒いトレンチコートを羽織ってドアノブに手をかけた瞬間、瑠璃が叫んだ。
「椿っ! 避妊だけは、ちゃんとしなさいよっ!」
「ひにっ……っ」
動揺のあまりドアノブを回しそこね、ガツン、とドアに頭突きした。
(いったぁ……)
「椿? すごい音したけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫……行ってきます……」
(避妊って……そんな展開になる? 仕事が忙しくて、食事の後も仕事する気なのに、その間に……できるものなの?)
雰囲気に流されてエッチしたという話はよく聞く。
でも、実体験がないため、どれくらいの時間と体力があれば、ディナー程度の逢瀬で可能になるのかわからなかった。
「椿さん」