二度目の結婚は、溺愛から始まる
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昼までかかって部屋の片づけを終えたわたしは、祖父と明日の夜にお寿司を食べに行く約束をして、夕方間近に実家を出た。
志摩子さんと祖父の「日常」を邪魔したくなかった――というのもあるが、蓮との未来をあれこれ推測されるのに耐えられなかった。
七年経ってはいるけれど、わたしと蓮との間に流れる時間は、いまようやく進み出したばかりだ。
自分の気持ちが定まらない状態では、何をどうしたいかすらわからない。
(逃げているわけじゃないわ。ただ……時間がほしいだけよ)
そう自分自身に言い訳しながら、駅前の書店で祖父が用意してくれた車から降りた。
蒼に頼まれた会場デザインのアイデアは、いくつか浮かんでいるものの、はっきりした形にはなっていない。
参考資料になりそうなウェディング関連の雑誌とガーデニングの写真集を買い求め、飲食店が並ぶ通りに足を向けた。
蓮の帰りが遅くなるなら、どこかで簡単に夕食を済ませてしまおうと思ったのだけれど、どうにも入りたいと思う店がない。
どんどん駅から遠ざかる一方だ。
いっそコンビニ弁当でもいいかと諦めかけた時、長い間訪れていない大事な場所を思い出した。
(そう言えば……征二さん、元気にしているかしら?)
蓮が仕事の合間に寄っていると言っていたから、お店はいまも営業しているはずだ。
将来的には、奥さんとふたりでお店を切り盛りしたいと言っていたが、その目標は叶えられたのだろうか。
思い出したら、ほかの店に入ることは考えられなくなった。
『CAFE SAGE』はビジネスマンやOLの利用客が多い。
あと一時間もすれば、仕事帰りの人々で混雑し始める時間帯になる。忙しいところを邪魔したくないし、できれば少し話したかったので、足を早めた。
懐かしい店の姿を求めて、通りを突き進む。
ところが、行けども行けども通りの左右に並ぶのは見覚えのない店ばかりで、徐々に不安が募ってきた。
(迷っては……いないわよね?)
念のため、スマホのマップで確かめようかと思いかけた時、ちょっとレトロな雰囲気の店構えと本日のオススメが手書きで記された看板が前方に見えた。
(あった!)
変わっていないのは、店の外観だけではない。
店のドアを開けるなり、出迎えてくれるコーヒーの香りも同じだ。
もともとアンティーク調の家具を主体にした店は、年月を経て全体的に艶を増し、さらに味わい深い印象になっている。
奥のテーブル席にお客さんがひとり。
カウンターの奥には、あの頃と少しも変わらない征二さんがいた。