二度目の結婚は、溺愛から始まる
一瞬、ぽかんとした表情になった征二さんは、ものすごい勢いでまくし立てた。
「椿ちゃん、いますぐ雪柳さんに連絡してっ! 繋がったら、俺が話すっ!」
「で、でも……」
すぐにでも連絡したほうがいいということは、わかっている。
わかっているけれど……。
蓮が本気で怒った姿を見たのは、付き合い始めるきっかけになった時、一度きりだ。
あの時は、蓮と待ち合わせの約束をしていたし、特別な事情もあった。
しかし今回は……連絡しようと思えばできた。
(確実に、怒られる……)
柾や祖父から、蓮が「営業の鬼」と言われていたことは聞いている。
理不尽なことで怒りはしないだろうが、部下に厳しい上司に違いなく、何時間も連絡せずに放置していたわたしに怒らないわけがなく……。
「え、ええと、気づかなかったことにして、このまま帰……」
消極的な解決法を口にした途端、征二さんが間髪入れずに否定した。
「ダメだっ! いいから、貸せっ!」
「えっ……あっ! せ、征二さんっ!」
いきなりスマホを奪い取った征二さんが、着信履歴から勝手に折り返しの電話を架け、無情にもわたしの耳に押し当てた。
「最初にまず謝る。それから、俺に代わる。いいね?」
「で、でもっ」
『椿っ!? どこにいるんだっ!?』
ワンコールで応答した蓮の怒鳴り声に、飛び上がる。
「れ、蓮……あの、その……」
『場所を言えっ!』
「ええと、その……」
早く謝らなくてはと焦れば焦るほど、言葉が出てこない。
不甲斐ないわたしに業を煮やした征二さんが冷ややかに告げる。
「椿ちゃん、もういいから代わって」
電話の向こうの蓮、目の前の征二さん。
どちらからも逃げられそうにない。
「れ、蓮、征二さんに代わるわね?」
『征二さん?』
征二さんは、電話を代わるなり謝罪した。
「申し訳ありませんでした、雪柳さん。風見です。はい、ええ、そうです。椿ちゃんは店にいますから、安心してください。実は、店のアルバイトが急に欠勤になって、ちょうど居合わせた彼女に手伝ってもらったんです。連絡もせず、勝手な真似をして申し訳ありませんでした。はい、もう閉店していますから、大丈夫です。お待ちしています」
テキパキと事情を説明し、電話を切った征二さんはほっとしたように息を吐く。
「雪柳さんが迎えに来てくれるって」