二度目の結婚は、溺愛から始まる
「でも、調べてわかるのは表向きの顔だけです。わたしが知りたいのは、雪柳さんの別の顔です」
「別の顔なんてないよ」
「大人は、本音と建て前を使い分けるものでしょう?」
蓮は、前を見たまま小さく呟く。
「俺は、君ほど演技派じゃない」
「え? 何か?」
「いや、なんでもない」
店は、わたしのマンションから車で十五分ほどの場所にあった。
高い塀に囲まれ、予約客以外は店の外観を見ることすらできない。
門を潜り、ライトアップされた小道を抜けた先に、白を基調としたモダンな建物が現れる。
「すてき……こんな場所が近くにあるなんて、知りませんでした」
「表立って宣伝はしていないからね。知り合いがオーナーなんだ」
駐車場に停まっている車は、どれも高級車だ。
明るい店内は、ほどよいざわめきと美味しそうな匂いに満ちている。
窓際のテーブルに案内され、ワインリストを差し出されたが、蓮はわたしに訊ねることなく断った。
「会長の手前、飲むわけにも、飲ませるわけにもいかない。水で我慢して」
「ワインは、あちらの国では水のようなものなのに?」
子ども扱いにむっとしたが、冷ややかな一瞥でたしなめられる。
「ここは、日本だ」
続けて差し出されたメニューを受け取った蓮は、流暢なイタリア語でも披露するのかと思いきや、いきなり「シェフのおまかせで」と丸投げした。
目を丸くしているわたしに気づくと、肩を竦める。
「好き嫌いはないし、あれこれ選ぶのは面倒だから、プロに任せることにしている。よほどひどい店じゃない限りは、食べられるものが出て来るからね」
なぜ、蓮がいつもカフェで「本日のおすすめ」を選ぶのか、納得した。
「食べることが、好きではないんですか?」
「優先順位の問題だよ。どこに、どれだけエネルギーを注ぐべきか。限られた時間を有効活用するためには、無駄を省くのが一番だ」
言っていることは、まちがっていない。
けれど、分刻みでスケジュールを組むような生活は、なんだか味気なく思われる。
「雪柳さんの息抜きは、何ですか?」
「息抜き?」
凛々しい眉を引き上げた蓮は、なぜそんなことを訊ねるのだと言いたげな表情だ。
「仕事ばかりでは、心も体も休まらないでしょう?」
蓮は首を捻り、しばらく考えていたが、首を振った。