二度目の結婚は、溺愛から始まる
「ごめんなさいっ……心配させるつもりはなかったのっ! 蓮が帰る前には、家に帰っているつもりで……ごめん……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい」
「……無事だったなら、いい」
「ごめんなさい、蓮」
「もういい」
しばらくして、蓮は大きく息を吐くと腕の力を緩めて、わたしを解放した。
「風見さん、すみませんでした。閉店しているのに、待っていただいて……」
征二さんを振り返った横顔は、すでに落ち着きを取り戻していた。
黙ってわたしたちのやり取りを見守っていた征二さんは、恐縮しきった表情で首を振る。
「とんでもない! こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした。つい椿ちゃんの厚意に甘えてしまって……」
「いえ、こちらこそ、みっともないところをお見せして、すみませんでした」
「みっともないなんて……心配されるのは当然です。椿ちゃんも疲れていると思いますから、ゆっくり休ませてあげてください」
「はい。今夜は、これで失礼させていただきます」
蓮に手を引かれるままに店を出る直前、征二さんに呼び掛けられた。
「椿ちゃん!」
「は、はいっ?」
振り返った先には、征二さんの穏やかな笑みがある。
「今夜話したことだけど、無理はしないで」
お店を手伝う件を言っているのだろう。
征二さんの頼みを引き受けたい気持ちに変わりはなかった。
けれど、こんなふうに心配する蓮を見てしまうと、何の相談もなく決めるのは、ためらわれる。
わたしが何をどうしようと口出しする権利はないと蓮自身も理解しているとはいえ、その気持ちや考えをまったく無視して、彼を傷つけたくはなかった。
「きちんと話し合って、理解を得られてから、返事をして?」
「はい。そうさせてください」
それでいいと頷いた征二さんは、にやりと笑った。
「今夜は眠れないかもしれないけれど……おやすみ、椿ちゃん」
(眠れないかもしれない? どういうこと?)
すでにクタクタなのだ。枕に頭をつけた瞬間、寝落ちするだろう。
よくわからないままに、とりあえず就寝の挨拶を返した。
「おやすみなさい。征二さん」