二度目の結婚は、溺愛から始まる
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車の中でも、エレベータの中でも無言だった蓮は、部屋に入るとようやく口を開いた。
「先にバスルームを使ってくれ」
「え、う、うん……」
もう怒ってはいないようだが、表情は硬いまま、目も合わせてくれない。
(気まずい……)
知り合ったばかりの頃はともかくとして、基本的に蓮は言葉や行動で思っていること、考えていることをきちんと伝えてくれる。
多少、意地の悪いことはしても、こんな風に取り付く島もない態度を取ったことなどなかった。
(面と向かって責められたり、怒られたりするより、無視されるほうが堪えるんだけど……)
シャワーを終え、項垂れたままリビングへ戻ると蓮は誰かと電話中だった。
短い相槌は、相手がしゃべり続けている証拠。
こんな夜中に蓮を相手にそんなことができる人物は限られている。
「柾?」
わたしの問いに、蓮は目で頷いた。
「ああ、いまちょうど出てきたところだ。椿、柾が話したいそうだ」
「えっ」
嫌だと言いたかったが、今夜の一件については、全面的にわたしが悪いという自覚はある。兄のお小言を頂戴しても、しかたない。
いやいや電話を代わると、いきなり叱りつけられた。
『この、バカっ!』
「……バカって、何よ?」
『おまえは、どれほど蓮を心配させれば気が済むんだっ!?』
「そんなつもりはなかったのよ……」
わたしと柾の会話が長引きそうだと判断した蓮が、バスルームへ行くと身振りで示すのに頷く。
『言ったはずだ。蓮は、七年前のことは、全部自分のせいだと思っている。もし、もう一度でも、自分が傍にいる時におまえに何かあったら、あいつは二度と立ち直れなくなる。離婚でボロボロになったのは、おまえだけじゃない』
蓮が、何のダメージも受けていないなんて、思っていない。
さまざまな人から、わたしと同じように蓮も苦しく辛い日々を過ごしていたのだと聞いている。
「それは……わかっているわ」
『本当にわかっているのか? おまえは、蓮に幸せになってほしいんだろう?』
自分がどうしたいのかはわからなくとも、それだけは確かだった。
いまも昔も、蓮には幸せでいてほしい。
「そうよ」
『だったら、いい加減、自分の蓮に対する影響力について自覚しろ。蓮には口を挟むなと釘を刺されているが……いくらおまえが妹でも、あいつを不幸にするような行動は許さないからな』
「そんなこと、するわけないじゃない」
『しているから言ってるんだ! おまえは、蓮を幸せにすることもできれば、不幸にすることもできるんだよ。だから、蓮に黙って勝手なことをするんじゃない。いいな?』
「…………」