二度目の結婚は、溺愛から始まる

わたしの返事を待たずに、柾は一方的に電話を切った。


(本当に、わたしは蓮を幸せにすることもできるの……?)


兄の言い分に、素直に頷けない。
不幸にすることができるのだから、幸せにすることもできるとは、言えないのではないか。
むしろ、不幸にすることしかできないという可能性がある。

今夜のように、蓮のトラウマを刺激して、恐怖のどん底に叩き落とすような真似をしてしまわないとも限らない。


「柾は、怒っていたか?」

「え?」


顔を上げると蓮がいた。


「う、うん。でも、いつものことだから」

「会長と一ノ瀬には、連絡した。……大げさに騒いで、悪かった」

「え……ううんっ! 連絡しなかったわたしが悪いの。ごめんなさい」

「……先に寝てもいいか?」

「わ、わたしも、もう寝るわ」


明かりを消してベッドに並んで横たわる。

身体は疲れているのに、目が冴えて眠れそうになかった。
真夜中で、これから寝るのだから、静かなのは当たり前なのに、沈黙が重いと感じてしまう。

無意識なのか、故意なのか、蓮が寝返りを打ってこちらに背を向けた。
二人の間が広がり、そのぬくもりが遠ざかる。

起きているのか、寝ているのか、わからない。
ただ、このままにしてはいけないと思った。


(これは……誘惑じゃない……和解の提案よ)


思い切って広い背中に抱きつく。


「蓮?」


そっと呼びかけるが、ピクリとも動かない。
眠ってしまったのだろうかと思った時、いきなり振り返った蓮に組み敷かれた。


「どうして……こんなのがいいのか、わからない」

「え?」

「生意気で、減らず口ばかり叩いて、人の気も知らずに勝手なことをして……ロクな恋愛経験もないくせに、わかったようなふりをして……自分には相手の息の根を止められる力があることも自覚していない。こんなお子さまのどこがいいのか……自分でもどうかしていると思う」

悔しそうな、それでいて苦しそうな表情で蓮が語る人物が誰なのか、知りたくない。
知りたくないが……この状況で「ほかの女性」のことを口にするほど無神経だとは思えない。

「……それって……もしかして……わたしのこと?」

「椿以外に、そんなヤツがいるわけないだろ」


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