二度目の結婚は、溺愛から始まる

わたしを見下ろす蓮のまなざしは、冷たかった。


「なあ、わかってるのか? 椿。おまえは今夜、恐怖で俺の息の根を止めるところだったんだよ。思いつく限りのところに連絡して、誰からも情報を得られなくて、パニックに陥った。ようやく連絡があった時、警察で捜索願を書いていたんだ。椿の行動を逐一確かめることなど無理だとわかっている。それでも……連絡がつかないと不安になる。離れていた時よりも、傍にいるいまの方が何倍も怖い。そんな風に怯える自分が情けなくて、腹立たしくて……でも、どうしようもない。自業自得だ。あの時、椿のところへ行けなかった自分のせいだ」


一気に胸の内を告白した蓮は、力なく笑うとわたしをシーツに縫い留めていた手を離し、身を投げ出すようにして横たわる。


「椿の傍にいると自分の罪を突き付けられるから、苦しい。でも、椿が傍にいない方が、もっと苦しい」


腕を上げて目を覆った蓮の自嘲を含んだ声音に、湿ったところはなかった。
むしろ乾き切っている。

だからこそ、泣いているのかもしれないと思った。


「蓮」

「もう一度最初から始めるなんて、無理だとわかっていたんだ。俺自身が、まったく乗り越えられていないし、一度壊れたものは元通りにならない」


確かに、そのとおりだった。
七年前のような気持ちで、蓮と向き合うのは無理だ。

でも、あの頃にはなかった気持ちがわたしを突き動かした。

身体を起こし、今度はわたしが蓮に覆いかぶさり、目元を覆う腕を引きはがした。


「ねえ、蓮」


暗闇の中、カーテンの隙間から差し込むわずかな月明りで、潤んだ瞳が輝いて見える。


「どうすれば、わたしたち(・・・・・)は幸せになれると思う?」

「…………」


沈黙が、答えだった。


「それがわかったら、きっと過去を乗り越えて、新しく始められるんだと思う」


目を見開く蓮が何か言おうとするのをくちづけで塞ぐ。


「キスして」

「椿……」

「蓮のキスが、好きなの」


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