二度目の結婚は、溺愛から始まる
七年前のわたしは、何もかもが初めてで、蓮の気持ちを思い遣る余裕がなかった。
いまでも十分あるかと言われれば、足りないかもしれない。
それでも、自分の気持ちを言葉にして伝えられるくらいには、大人になったつもりだ。
わたしに、蓮を幸せにできる力はなくても、幸せな気持ちにはさせられるかもしれない。
たとえそれが肉体的なものであっても、かまわない。
「好きなのは、キスだけなのか?」
むっとした表情で問い返す蓮を見下ろし、にっこり笑う。
「いまのところは」
「…………」
後頭部に回した手でわたしを引き寄せた蓮は、唇を重ねたまま体勢を入れ替えた。
のしかかる重みは、苦しさより心地よさが勝る。
昔から、傷ひとつない真新しい家具よりも、時を経て使い込まれた家具のほうが好きだった。
歪んで開けにくい引き出しや剥がれた螺鈿細工、欠けた茶碗。
骨董としての価値が低いものにこそ、魅力を感じる。
蓮は、今夜見せた完璧ではない姿に、一段と惹かれたと言ったら怒るだろうか。
相手が蓮だと言うだけで受け入れてしまう身体は、正直な悦びに反応し、間断なく続くキスでまともに考えられない。
出会って、恋に落ちて、結婚する。
一度目はそれでいい。
でも、二度目の結婚は、もっと複雑だ。
美しく完璧なところではなく、むしろ醜く不完全なところに惹かれている。
甘い吐息に混じるのは、諦めの溜息だった。
(つまり、これは恋ではなく……)
別れた夫に対して抱く感情は、いまさら気づくには厄介すぎるものだった。