二度目の結婚は、溺愛から始まる
これまでいろんな蓮の姿を見てきたが、一番好きな恰好はどれだろうと首を捻る。
(スーツ姿はもちろんすてき。ジーンズも似合う。和装も、よく似合ってた。でも……)
十五分前に見た、寝起きでぼうっとしていた蓮を思い出し、つい口元が綻ぶ。
(無防備な寝起き姿が一番好きかも。だって、そんな姿を見せるのは、ごく限られた人にだけ。そうでしょう?)
ふと顔を上げた蓮が、なぜか驚いたように目を見開いた。
「蓮? どうかした? 味が気に入らない?」
「……美味いよ」
「ねえ、そのフレンチトースト、どう思う? ふわふわ感が足りないと思わない?」
「え? いや、こんなものだろ」
「もっと時間をかけて浸せば、もっとふわっふわになるのよ。それに、もうちょっと厚いパンなら、言うことないわ」
「へえ……」
和食好きの蓮は、基本的にごはん派なのか興味がなさそうだ。
うわの空で、オレンジに手を伸ばす。
蓮が食べ終わる前に、昨夜話せなかったことを伝えなくてはならない。
先延ばしにすればするだけ、征二さんはわたしをアテにしていいのかどうか判断できずに、困るだろう。
どんな反応が返ってくるか予測もつかないが、覚悟を決めて口を開いた。
「あのね、蓮。実は……来月ある友人の結婚式までの間、アルバイト程度でもいいから、どこかでカフェの仕事をしたいと思っていたんだけど……。征二さんに相談したら、お店を手伝ってほしいと言われたの」
「風見さんの店を?」
オレンジの酸味が気に入らなかったのか、蓮は微かに顔をしかめた。
「征二さんの奥さんが入院することになって、時々店を空けなくてはならないみたい。それで、勝手がわかっていて、かつお店を回せる人を探していたみたいで……」
「入院は、長くなりそうなのか?」
「詳しいことは聞いていないから、わからないわ。でも、お店を休むのではなく、代わりの人を探すということは、長くなりそうなんだと思うの。征二さんにはとてもお世話になったから、できることなら協力したい。バーテンダーの仕事も教わりたいし……。夜のシフトも含めて、週に何回かアルバイトしてもいい?」
蓮はオレンジに視線を落としたまま、「かまわないんじゃないか」と言った。
「俺には、椿がやりたいことを止める権利はない。体調を崩さない程度なら、夜の勤務について柾も文句は言わないだろう。帰りは、俺の都合がつくときは迎えに行くし、無理な場合はタクシーを使えばいい」