二度目の結婚は、溺愛から始まる

反対されたかったわけではないが、やけにあっさり認められると逆に不安になる。


「蓮は、大丈夫なの?」

「大丈夫、とは?」

「わたしが夜のシフトに入ると、蓮とすれ違いの生活を送ることになると思うの」

「仕事なら、しかたないだろう? 家事は無理にしなくていい。できる時に、できる方がやればいい。帰宅時間も気を遣わなくていい」

「そういうことじゃなくて……」

「俺に遠慮して、困っている風見さんを助けたい気持ちを我慢することはない。風見さんが腕のいいバーテンダーだったことは聞いている。学べるチャンスを無駄にすべきじゃない」


模範的な理解ある夫の答えに、溜息を吐きたくなった。
今日にでも征二さんに返事をしたかったが、無理そうだ。


(ダメだわ……征二さんに、大丈夫ですなんて言えない)


蓮の表情は硬く、本心を悟られないようにガードしているのがわかる。

そうとわかるようになったのは、七年前より蓮に近づけている証拠だが、それだけでは不十分だった。

やりたいことをやりたいように、やる。

ずっとそうやって生きて来た。
蓮と結婚していた時も変わらずに。

仕事を優先していたのは、蓮だけではない。
わたしも、蓮以上に夢を実現させることに必死で、周りのことも、傍にいた蓮のことも、後回しだった。

二人で暮らしていたけれど、二人で過ごしてはいなかった。
二人の生活を築こうともしていなかった。

話し合うことすらも、しなかった。

些細な一瞬も、大事な時も。
何一つ積み重ねることができなくて、当然だった。


(たぶん……ううん、きっと、蓮は自分の方が年上だからといろんな思いや望みを呑み込んでいた。離婚に同意したのも、自分の気持ちよりわたしの気持ちを優先したから。そう言っていたお祖父さまの言葉に、嘘はないはず……)


結果として、わたしの望むとおりになるとしても、蓮の気持ちを無視したくなかった。

蓮は、口では「束縛したい」と言っていても、実行に移しはしない。わたしの気持ちを優先させると断言できる。

そうしなくてはいけないと決めたら、自分の気持ちを捻じ曲げてでもやり遂げてしまうのが、蓮だ。

昨夜のようなことでもない限り、自制心を失うなんてあり得そうにないが、だからと言って、わざと動揺させるなんて真似はしたくない。


(どうすれば、蓮の本音を聞き出せるの?)


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