二度目の結婚は、溺愛から始まる
頭を抱えたくなった時、テーブルに置いていたスマホが鳴り出した。
意味不明のスタンプと共に送られて来たメッセージは、母からの『家庭菜園の春野菜が豊作だから、取りに来ない?』という何とも平和なお誘いだ。
現在、郊外の山奥に住む母と義父は、近隣の農家から分けてもらった苗や種でつくる家庭菜園にハマっているらしい。
(そうだわ! 日常から離れれば、解放的な気分になって普段言えないことも言えるかもしれない。ドライブするにはちょうどいい距離だし、二人で過ごす時間を作ることにも繋がるし……)
週末に母のもとを訪れようと決めた。
「ねえ、蓮。今週末は、忙しい?」
「土曜までは残業続きの予定だが、日曜は休むつもりだ」
「それなら、日曜日にわたしの母のところへ遊びに行かない? 家庭菜園で作った野菜をくれるって言うの」
「店を手伝う件は、いいのか?」
「本格的にシフトに入るには、もうちょっと細かい打ち合わせが必要だから、早くても来週からにしてもらうつもり。近くに湖とか景色がきれいな場所もあるって聞いたし、いい気分転換になると思うわ」
蓮は悩む様子もなく頷いた。
「わかった。日曜は、空けておく」
「ありがとう! 楽しみにしてるわね?」
母を訪ねるとしても、二人で遠出するのは初めてだ。
つい浮かれて喜んでしまったが、蓮はなんだかぼんやりしている。
「蓮? どうしたの? やっぱり行きたくない?」
「ああ、いや、そんなことはない。行きたい。菫さんにもしばらくお会いしていないし……」
「それなら、いいんだけど……」
蓮の反応に首を傾げながら、空になった皿を片付ける。
そろそろ家を出る時間ではないかと振り返ったが、蓮の姿が見当たらない。
慌てて玄関に向かい、出て行く寸前だったところを呼び止めた。
「蓮っ!」
「どうした?」
「どうしたって……」
どうして「いってきます」も言わずに出て行くのかと文句を言いかけて、それでは新婚夫婦のようなやり取りだと気付き、恥ずかしくなって俯いた。
「な、なんでもないわ……あの……いってらっしゃい」
「椿」
小さく溜息を吐いた蓮に呼ばれる。
顔を上げると、険しい表情でこちらを見下ろしていた。
(わたし……何か怒らせるようなこと、言った? ううん、言ってない。出がけに呼び止めたから? でも、十分時間に余裕があるわ)
短いやり取りの中、不機嫌になる要素などなかったはずだと自問自答する。
「よほど、俺を仕事に行かせたくないようだな」
「そ、そんなことないわっ!」
仕事の邪魔をしていると言われるなんて、心外だ。
理不尽な言いがかりだとむっとしたが、蓮は「そんなことは、ある」と断言した。
「なっ……」
「こうならないように、黙って出て行くつもりだったんだ。それなのに……計画が台無しだ」