二度目の結婚は、溺愛から始まる
いきなりわたしの腰を引き寄せた蓮は、唇を重ねた。
(え、え……な、なに……)
うろたえている間に唇を割られ、舌を絡め取られて、膝から力が抜ける。
服の上ではなく、下に忍ばせた手で背中を撫で上げた蓮は、むき出しになったわたしの胸を自分の胸に押し付けるように、強く抱きしめた。
昨夜の名残もあって、蓮の愛撫に慣れた身体は小さな刺激も余さず拾い上げ、官能的な悦びへ変換してしまう。
理性を保つなんて、無理だった。
蓮がこれから出社するところだったこともすっかり忘れ、整えられた髪に手を差し入れて、ぐしゃぐしゃにしてしまう。
もしも蓮の胸元で、着信を知らせるスマホが震えなければ、わたしたちは行きつくところまで行っていたと思われる。
朝から。
しかも、玄関で。
「――っ!」
しばらくしても振動が止まらないとわかり、苛立った蓮が唇を離した。
とても邦訳できないような罵り言葉をひとしきり叫び――落ち着いた声で、応答する。
「はい、雪柳です」
蓮は、鉄の自制心を発揮し、「ああ」とか「うん」とか返事をしていたが、電話の内容に苛立ちを覚えたのか冷ややかな声で会話を締めくくった。
「とにかく、出社後に詳しいことを確認する。必要とあれば、俺が直接むこうへ飛ぶ。とにかく、担当者には俺から連絡するまで一切手をつけるなと言っておけ。何を言われても、連絡を待てと突っぱねろ。いいな?」
会話の内容から推測するに、どうやら面倒な問題が持ち上がったらしい。
「出張になりそうなの?」
「ああ、いや……」
深々と溜息を吐いた蓮は言葉を濁そうとしたが、わたしがじっと見つめると諦めたように頷いた。
「状況次第では、俺が直接出向くことになるかもしれない。国内だから、二、三日で戻れるとは思うが……あとで、連絡する」
「荷物は?」
急いで準備しなくていいのかと確かめれば、大丈夫だと頷く。
「突発的な出張に備えて、常時社に用意してある。俺が出張になるようなら、会長のところに泊まったらどうだ?」
「そうね。考えておくわ」
会計監査や株主総会が控えているだけに、大事にならないか心配だが、週末の約束がキャンセルになるかもしれないと思うと、落ち込まずにはいられなかった。
「椿……日曜までには戻る」
「無理はしないで」
この事態は、蓮のせいではない。
そう自分に言い聞かせ、笑みを取り繕う。
しかし、蓮の不満はわたしの想像以上に大きかったようだ。
いま一度、とても邦訳できない言葉で罵り、真顔で吐き捨てた。
「こんな中途半端な状態で終われるかっ! 無理をしてでも、絶対に戻る」